三陸の山と海に惹かれて。トレイルがつないだ移住の道
- 1月14日
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更新日:1月26日

⚫︎NPOディスカバー・リアス代表 中尾益巳さん
静岡県沼津市出身の中尾益巳(なかお・ますみ)さん。大船渡市に移住する前は、NHKに長年勤め、ディレクター・プロデューサーとして主にドキュメンタリーの制作に携わっていました。その仕事の中で「トレイルランニング」というスポーツに出会ったことが、全てのきっかけだったと語ります。
トレイルランニングとの出会い。
トレイルランニングは、山道など未舗装路を長距離走る競技です。マラソンなど一般的な舗装路を走る長距離走とは異なり、山・森林・砂漠など、舗装路ではない不整地で 行われるランニングレース。中尾さんは、日本を代表するトレイルランナーが海外の大会に出場するドキュメンタリー番組を制作したことがきっかけで、トレイルランニングというスポーツにのめり込むようになります。
「競技をしている人たちや、トレイルランニングの大会には魅力的なものが多かったです。そういった大会を取材して回る中で、『日本で本格的なトレイルランニングの大会を作らないか』という話が持ち上がったんです」。
東京勤務が長かった中尾さんでしたが、出身地ということもあって富士山麓を一周するトレイルランニング大会「ウルトラトレイル・マウントフジ」を作ろうと動き始めます。2011年5月の開催を目指し、2010年からその準備を始めました。一周100マイル(165km〜170km程度)という規模の大きなレースでしたが、順調に進んでいるかに見えた矢先、東日本大震災が発生してしまいます。世論が一気に自粛に傾き、大会は中止に。開催を1年延期することになりました。
ぽっかり空いた時間で、南三陸町へ災害ボランティアへ。
2011年5月に予定していた大会が中止になってしまい、時間に空きができた中尾さん。担当分野が異なるため、NHKの仕事で現地取材に入ることは求められませんでした。
「それならボランティアとして一人で現地に行ってみようと思ったんです。どんなところで何が起こっているのか、実際に自分の目で見てみたいという気持ちが強くて」。
宮城県南三陸町歌津で3日間、食料の仕分けや配達などのボランティアを行います。さらに、陸前高田市で記録写真を撮るボランティアを見つけ、1週間ほど滞在しました。震災から2ヶ月のまちは、まだ遺体がたくさん見つかるような状態でした。陸前高田市でのボランティアが終わったあとは、高校の同級生が仕事で宮古市にいるため、宮古市に向かいました。
「東京から自分の車で来ていたので、南三陸町から宮古市まで、ずっと三陸沿岸を北上していきました。このとき、大船渡市も通っています。当時の国道45号線は、あちこち寸断されていて、迂回路を探しながら進んでいくような状態でした。陸前高田市から宮古市まで行くのに3日くらいかかったと思います。その過程で、南三陸町から宮古市までの間を、自分の目で見て回りました」。
なぜ、大船渡市を移住先に選んだのか。
リアス海岸と聞くと、海岸線のイメージが強かった中尾さん。自分の目で見た実際の地形・景色は、感動的なものでした。
「例えば、陸前高田から大船渡へ行くときも、途中で通岡峠を越えますよね。ちょっと標高が上がると、そこには何の被害もない。そして、山を下りて大船渡のまちに入ると、また壊滅的な光景が広がっている。
その繰り返しなんです。
釜石から大槌、山田、宮古……どの区間も、必ず間に山があって、山の上からは、とても綺麗な海と入江、半島の景色が見えるんです。『リアス海岸って、こんなに美しい風景なんだ』と、そのとき初めて実感しました」。
トレイルランニングは、基本的には内陸の山岳コースが中心です。海が遠くに見えることはありますが、山からすぐ近くに海があり、しかも長く続いているという景色は、今まで見たことがなかったそうです。
いつか復興を遂げたら、リアス海岸の山々とまちをつなげた長いトレイルランニングレースを開催できるのではないか、しかも三陸の町と町をつなぎ、数日間かけて旅のように走る「ステージレース」にできるのではと思いついた中尾さん。このレースを企画・準備する拠点をどうするかと考えた時に、その中心に位置していて南にも北にも動きやすい場所として、大船渡を移住先に選びました。

大船渡で見つけた、新しい暮らしと心強い出会い
2020年の夏、NHKを1年早く早期退職し、59歳で大船渡に移住した中尾さん。自分のやりたいことを達成するためという理由で大船渡市を選んだものの、実際に選んで良かったといいます。
「暮らしの面では、実際に来てみてから暮らしやすいなと思いましたね。いろいろ調べている段階では、そこまでピンときていなかったんですが、住んでみると、生活環境としても、 とても良いと感じました。
あと、阿部正幸(東北食べる通信編集長)さんと出会えた、というのも大きいですね。
トレイルランニング大会の開催を目指し立ち上げたNPOのメンバーは、もともとトレイルランニング仲間を中心とした東京の人間ばかりでした。
やっぱり地元の人がいないとわからないことが多いので、知人の紹介で阿部さんを紹介してもらい、移住前に知り合いました。移住前から阿部さんに、大船渡のことをいろいろ教えてもらえたのは、本当に心強かったです」。
移住当初は民間アパートで暮らしていましたが、家賃は月5万円。大船渡の相場としては決して安くありません。そんなタイミングで、阿部さんから「市営住宅に空きが出ている」と知らせてもらい、現在の住まいへと移ることになりました。
新しい住まいは広く、バリアフリーで、駐車スペースも十分。収入に応じて家賃が調整される仕組みのため、現在の負担は月2万円程度に抑えられ、生活コストは大きく改善しました。一人でゆとりある空間を利用できることへの感謝を口にしつつ、移住者向けの住宅としてもっと活用できるはずだ、と感じているそうです。

第二の人生に寄り添う、大船渡市の環境
中尾さんの大船渡市での暮らしは、「自分が大切にしたいこと」を軸にまわっています。地方移住を考えている人、とくに第二の人生を歩み出そうとしている世代にとって、この環境は本当に魅力的だと語ります。
田舎でありながらまちは新しく、震災後に整備されたインフラが整っています。その良さがまだ十分に知られていないことが、むしろ大きな可能性につながっているのかもしれません。
自分の足で三陸の景色を見てまわり、やりたいことを追いかけ、大船渡で暮らすことを選んだ中尾さんの姿からは、地方で生きるという選択が、人生の後半をより豊かにしてくれる可能性が見えてくるのではないでしょうか。

●プロフィール
中尾 益巳(なかお・ますみ)/ 1961年6月11日生まれ。静岡県出身。元 NHK ディレクター・プロデューサー。世界最大のトレイルランニングレース、ウルトラトレイル・デュ・モンブラン(UTMB)を追ったドキュメンタリー番組「激走モンブラン!」(2009年)制作をきっかけにトレイルランニング大会の企画運営に携わる。NHKを早期退職後、大船渡市に移住した。現在は、NPOディスカバー・リアスの代表理事も務める。
●休日の過ごし方:碁石海岸をぐるっと回ってくると、ちょうど1周10キロくらいになります。そこを歩いたり走ったりしながら回るのが、僕にとって一番好きな休日の過ごし方です。
●大船渡の好きな場所:碁石海岸
「みちのく潮風トレイルの中でも、景色が良くて、海を長く眺めながら走れる場所が好きなんです」
●大船渡の好きな店:ごいしふぉん
「シフォンケーキの自販機」










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